大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(ラ)321号 決定

抗告人代理人は、原決定を取消す、相手方の別紙目録記載の土地に対する占有を解き抗告人の委任した執行吏にこれが保管を命ずる。執行吏はその現状を変更しないことを条件として相手方に対しこれが使用を許さねばならない。但この場合執行吏はその保管に係ることを公示するため適当の方法を取らなければならない 相手方はその占有を他人に移転しまたは占有名義を変更してはならないとの裁判を求め、その理由として主張する事実関係の要旨は次のとおりである。即ち、抗告人は昭和十九年三月三十日竹内正次から別紙目録記載の土地を賃借し、その地上に建物を所有していたが、右建物は昭和二十年五月二十九日戦災を被り焼失したところ、右土地は終戦後占領軍に接収せられ占有せられていたが昭和二十八年中に至りその接収の解除を見た。しかるにこれより先、竹内正次は昭和二十七年七月十一日に右土地を相手方に譲渡しその旨の登記を経由したが、元来抗告人においては右土地につき罹災建物滅失当時から賃借権を有していたにも拘らず、右土地が前記のとおり接収を受けていたため右賃借権を第三者に対抗する方法を講ずるをえない事情にあつたところ、竹内正次は罹災都市借地借家臨時処理法第十条所定の昭和二十一年七月一日から五箇年の期間経過後に上記のとおり右土地を相手方に譲渡したものである。しかしながら同法第十条所定の五箇年の期間は占領軍による接収中はその進行を停止し、右接収解除後に初めて進行すべきものであるから、抗告人は相手方に対し、抗告人において依然として前記土地につき賃借権を有することを主張しうる次第である しかるに抗告人においてこれを放置するときは、相手方は右土地の占有を第三者に移転し抗告人の賃借権の行使に困難を来たす虞があるから、これが保全のため原審裁判所に前記趣旨の仮処分命令を申請したが却下されたから、原決定を取消し右仮処分命令を求めるというのである。

惟うに、罹災都市借地借家臨時処理法第十条の規定によれば罹災建物の滅失当時から引続きその建物の敷地または換地に借地権を有していた者は、その借地権の登記、またはその地上の建物の登記がなくともなお、昭和二十一年七月一日から五箇年以内にその土地につき権利を取得した第三者に、その権利を対抗しうるものとして右借地権者の利益の保護を図ると共に、右借地権者も、昭和二十六年七月一日以後にその土地につき権利を取得した第三者には、右の対抗要件を備えなくてはその権利を主張しえないものとして、右土地の取引の安全を期したものと解すべきである。即ち、これによれば、右借地権者は例外的に一定期間内に右土地の権利を取得した第三者に限りこれに対し対抗要件を備えなくてもその権利を主張することが許されていたものというべきである。従て借地権者において昭和二十六年七月一日以後に右土地につき権利を取得した第三者に対しその権利を主張するには対抗要件を備えることを要するものと解すべきは言をまたないところであつて、本件においても、たとえ抗告人がその主張するように、占領軍による接収後も引続き前示土地に賃借権を有しており、しかも右接収のためその対抗要件を備えることを妨げられていた事情にあつたとしても、抗告人において昭和二十六年七月一日以後に右土地の所有権を取得した相手方に対しその賃借権を主張するには、対抗要件を要しないとする特則の存しない限り、なおこれを要するものというべく、かかる特則の存することを認められない本件においては、抗告人は相手方に対し右賃借権を主張しえないものといわざるをえない。しからば相手方に対し右賃借権を主張しうることを前提とする本件仮処分申請は許されないから、これを却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!